『パンプキン! 模擬原爆の夏』(令丈ヒロ子)

パンプキン!  模擬原爆の夏

パンプキン! 模擬原爆の夏

大阪市東住吉区田辺に住む少女ヒロカは、模擬原子爆弾パンプキンの調査のために祖父を訪ねてきたいとこのたくみの世話を、母親から命じられます。気の合わないたくみと衝突しながらも、ヒロカは徐々にパンプキンに対する興味を深めていき、夏休みの自由研究の課題にします。
この作品が平和学習の素材として優れているということはすでに各所で指摘されているので、ここではそれ以外の面を語ろうと思います。いつもの令丈作品のテーマが仕込まれている点も見逃してはなりません。
たとえば、コミュニケーションの問題。ヒロカは話がしやすいようにと思って親切心からたくみの前でボケてみせますが、たくみがつっこまないのでコミュニケーションが成立しません。ふたりはコミュニケーションの様式が違うのです。
コミュニケーションの様式にも関連しますが、ふたりの情報に対する態度にも顕著な違いがあります。模擬原爆のことを知ったヒロカはその情報をみんなに伝えたいという思いを抱くようになります。一方たくみは、「自分が本当のことはなんなのかを知りたいだけ」で、情報を拡散させることには興味を持ちません。これはどちらがいい悪いということではなく、人間の考え方には違いがあるということを著者は伝えたいのでしょう。
情報といえば、戦争の加害被害の歴史を知ってしまったヒロカが今まで「ステキでかっこいいアイドルの国」だと思っていた韓国や「ディズニーランドやミッキーマウスを生み出した国」だと思っていたアメリカへの認識の更新を迫られ、思い悩む場面が丁寧に描かれています。知識を得る、情報を知ってしまう事による痛みというテーマは、2009年の『わたしはなんでも知っている』とも共通しています。