『人気のひみつ、魅力のありか』(藤本英二)

人気のひみつ、魅力のありか―21世紀こども文学論 (日本児童文化史叢書)

人気のひみつ、魅力のありか―21世紀こども文学論 (日本児童文化史叢書)

主にベストセラーになっている児童文学を取り上げ、その人気の秘密に迫っていこうというコンセプトの評論です。第一章で「かいけつゾロリ」シリーズ、第二章でスポーツ児童文学として『バッテリー』『DIVE!!』『一瞬の風になれ』の三作を取り上げています。第三章がベストセラー作家とは言い難い岩瀬成子論になっているのが謎ですが、語られることの多い初期の問題作群でなく、最近の『オール・マイ・ラヴィング』『まつりちゃん』を取り上げているところに著者のこだわりがあるようです。
もっとも注目すべきなのは、俗悪の一言で片付けられることの多い「ゾロリ」を詳細に分析した第一章でしょう。シリーズには子供の好奇心を刺激する「知的な遊び心」が仕掛けられており、その代表が「オヤジギャグ」であるという指摘がユニークです。
第二章のバッテリー論では、編集者の証言と佐藤真紀子のイラストの変化を手がかりにシリーズが「物語」から「小説」に変貌していく様子を論考しています。
また、『DIVE!!』の女性の描き方のうまさと比較して、『バッテリー』がダメダメであることを批判しているのも興味深いです。「女が描けているか」という問題は、以前は男性作家同士で無根拠に言い合っているどうでもいい話題でしたが、今は女性作家の「女の描けなさ」が問題にされる時代に変化したようです。