『ペーパータウン』(ジョン・グリーン)

ペーパータウン (STAMP BOOKS)

ペーパータウン (STAMP BOOKS)

岩波書店創業100年企画の海外YA叢書「STAMP BOOKS」の第一回配本の一冊です。「STAMP BOOKS」は海外から届くエアメールのような本をコンセプトにしていて、手紙をモチーフにした軽いながらも上品な装丁が目を引きます。
『ペーパータウン』は2009年のエドガー賞ヤングアダルト部門賞受賞作。高校生クエンティンが失踪した幼なじみマーゴを探す話です。
ふたりが9歳のころ、公園で死体を発見したことがありました。その帰り道、マーゴのスニーカーの裏に血が付いていたことが、クエンティンの記憶に鮮明に残っていました。マーゴは謎めいたことが大好きで、死体の正体を穿鑿します。それ以来ずっとマーゴのことが好きだったクェンティンは、失踪の前日も少々過激ないたずらの片棒を担がされてしまいます。

マーゴはいつだって謎めいたことが好きだった。だから、その後の一連の出来事のなかで、僕はずっとこう思っていた。マーゴはきっと、謎めいたことが好きすぎて、謎そのものになってしまったんだって。(p14)

タイトルの〈ペーパータウン〉とは、地図制作者が地図を剽窃された際にその証拠になるように書き込んでおく架空の町のことです。紙の上にしかない〈ペーパータウン〉には、紙でできた少女〈ペーパーガール〉が住んでいて、誰からも愛されています。なんのことはない、紙の上のにしかない存在とは、小説のことです。つまりこの作品は、一種の虚構論にもなっているのです。そのことを考え合わせると、ある方向に進まなくてはならないような空気を作っておいてそれを裏切ったかのようにみえるラストが、意味深長になってきます。