2013年の児童文学

マルセロ・イン・ザ・リアルワールド (STAMP BOOKS)

マルセロ・イン・ザ・リアルワールド (STAMP BOOKS)

わたしは倒れて血を流す (STAMP BOOKS)

わたしは倒れて血を流す (STAMP BOOKS)

今年は翻訳YAが大豊作でした。リアリズム路線では、岩波書店創業100年企画の海外YA叢書「STAMP BOOKS」。現代を生きる若者のアイデンティティのあり方を問うた『マルセロ・イン・ザ・リアルワールド』や『わたしは倒れて血を流す』など、どれも年間ベスト級の傑作ばかりでした。
人という怪物 上 (混沌の叫び3) (混沌の叫び 3)

人という怪物 上 (混沌の叫び3) (混沌の叫び 3)

SFでは、三部作でガーディアン賞・カーネギー賞コスタ賞(旧ウィットブレッド賞)児童文学部門を受賞するという、「ライラの冒険」シリーズに迫る高評価を受けた「混沌の叫び」シリーズが完結。
何かが来た (21世紀空想科学小説 2)

何かが来た (21世紀空想科学小説 2)

今年注目すべき新レーベルは「STAMP BOOKS」だけではありません。日本SF作家クラブ創立50周年の企画「21世紀空想科学小説」は、SF児童文学氷河期を一気に真夏にしてしまいました。SF作家クラブ会長の東野司の『何かが来た』は、ディストピアSFとしても戦争児童文学としても出色のできばえ。そのほかの作品も、タイプは違えどジュヴナイルSFの王道を行く傑作揃いです。
海底大陸 (パール文庫)

海底大陸 (パール文庫)

七つの蕾 (パール文庫)

七つの蕾 (パール文庫)

そして、なんとも異様な存在感を放っていた新レーベルが、パール文庫でした。戦前・戦時中の大衆児童文学に現代風のイラストを付けてよみがえらせるという奇抜な試みによって、王道娯楽の底力を見せつけました。思えば今年は、昔ながらのエンターテインメントを見直す年だったのかもしれません。かこさとしの新作・リバイバル祭りも忘れてはなりません。
スーパーミラクルかくれんぼ!! (集英社みらい文庫)

スーパーミラクルかくれんぼ!! (集英社みらい文庫)

第1回集英社みらい文庫大賞では、選考委員の石崎洋司が「ダサくて」「超コンサバ」という、保守性の価値を訴えていました。その結果登場したのが、かくれんぼの遊戯性をとことん追求した『スーパーミラクルかくれんぼ!!』に、近未来設定で塔に幽閉されている姫君を王子様が救出する古典的ストーリーを展開させた『ロボ☆友』でした。この方向性から新たな児童文学のスタンダードが生まれるのか、今後の展開に注目していく必要があります。
色のない怪談 怖い本 (ポプラポケット文庫 児童文学・上級〜)

色のない怪談 怖い本 (ポプラポケット文庫 児童文学・上級〜)

いつの時代も、子どもに喜ばれるエンターテインメントといえば怪談です。緑川聖司の「本の怪談」シリーズが全10巻で完結。拾った本にまつわる怪談に巻き込まれるというメタ形式を駆使して、ホラーだけでなくミステリやSFなどあらゆるジャンル小説の愉楽を子どもにたたき込んだ、罪深いシリーズとなりました。
かさねちゃんにきいてみな

かさねちゃんにきいてみな

単純に笑えるという点では、今年のベストは、『かさねちゃんにきいてみな』です。小学校の登校中のみを舞台にしてそのおバカな世界を言文一致体で記述し、写実性を追求した結果、みごとなギャグ小説が生まれました。児童文学の娯楽性を考える上で、この作品も重要になりそうです。