『小惑星2162DSの謎』(林譲治)

小惑星2162DSの謎 (21世紀空想科学小説 4)

小惑星2162DSの謎 (21世紀空想科学小説 4)

家弓トワは、人工知能のアイリーンと機械頭脳のワトソンのみを仲間として宇宙を旅している宇宙飛行士です。ワトソンが調査の必要ありと判断した小惑星に赴いたところ、地下に水があるようであったり、不可解な熱があったりと、謎だらけ。さらに調査を進めると、生命まで発見されます。遺伝子が同じなのに形状が違う微生物、さらには節足動物までも。はたしてこの小惑星の正体は……。
この作品には、余分な人間ドラマなどは一切ありません。最初から最後まで知的興味だけで引っ張っていくガチガチのハードSFです。
まずは、人工知能と機械頭脳の違いについて解説し、人類を含めた3つの異なる知性について興味を引きつけます。そして、重力の弱い小惑星に着陸する苦労を臨場感たっぷりで描き出します。着陸してからは物語はもうノンストップで進行します。謎が謎を呼び、想像を絶する小惑星の実態が徐々に明らかになり、観測することで小惑星の環境が変化して新たな危機も発生し、ページをめくる指が止まりません。
トワとアイリーンのかけあいと地の文の連携によって、予備知識がなくてもなにが不思議でなにがすごいのかが、容易に理解できるようになっています。絶妙のタイミングで謎を明かして物語を進める構成も見事。宇宙・生命・機械といった広範で難解なテーマを、小学生にも楽しめるように仕上げた筆力には、敬服するしかありません。児童向けのハードSFとしてパーフェクトです。
この作品で初めてハードSFに触れる子どもも多いはず。これが初めてだと、ハードSFに求める水準が上がりすぎてこれから苦労するんじゃないかと余計な心配をしてしまうくらい、すばらしい作品でした。