『洞窟で待っていた』(松崎有理)

洞窟で待っていた (21世紀空想科学小説 7)

洞窟で待っていた (21世紀空想科学小説 7)

21世紀空想科学小説第4回配本は、松崎有理による地下SFです。
なぜか洞窟がたくさんある〈穴ぼこ町〉で暮らす、穴を愛しすぎている子どもたちの物語です。洞窟探検が好きな少年アジマ、穴を掘ることが好きでいつもヘルメットとシャベルを装備している土木少女コマキ、神話や物語など文化的な側面から穴に興味を持っているらしい少年イーダ。3人の少年少女がそれぞれのアプローチで穴への愛を語るので、読者もすぐ穴の魅力の虜になってしまいます。10ページも読めば、「すべてのくらがりは穴だった」(p23)という何気ない描写も『天の光はすべて星』みたいでかっこいいと思わされるくらい、洗脳されてしまいます。
庶民が宇宙旅行をできる未来が舞台になっていて、子どもたちのあいだのはやりものが耳慣れない単語ばかりになっていたり、教科書に載っている文学作品も架空のもの(多分)になっていたり、作品世界はかなり作り込まれています。ただしその設定は、物語の大筋にはあまり関わってきません。これは、穴を偏愛するあまり周囲から疎外されている主人公たちの異邦人性を高め、それに読者を同調させるための仕掛けと思われます。しかしそれ以上に、作品世界をへんてこにして、味わい深くする効果を上げています。その結果、SF絵師の大御所横山えいじのイラストがぴったりな、奇妙な作品になっていました。