『泥棒をつかまえろ!』(オットー・シュタイガー)

泥棒をつかまえろ!

泥棒をつかまえろ!

「ただ問題なのは、君が、あきらかに、何ひとつわかっちゃいない、ということだ」
(p118)

1988年に佑学社から刊行されたスイスの児童文学が、童話館出版から再刊されました。美しい山のふもとの街の写真に、丸っこい文字でこのゆるいタイトル。このパッケージではライトなユーモアミステリのように見えますが、これがとんでもない表紙詐欺です。中身は『蝿の王』でした。
ギムナジウムの生徒たちが山荘でクラス合宿をしていたところ、合宿の費用がなくなるという事件が起きます。警察を呼ぶと、逃亡中のイタリア人の泥棒がやったのだろうという情報が入ります。ところが警察は、人手不足を理由に泥棒の追跡を拒否、あろうことか「自分たちでつかまえな!」と言い放ちます。
権力のお墨付きを得て、正義のために暴力を行使する、しかも相手は被差別階級のイタリア人、こんなおもしろそうな娯楽を見逃せるはずがありません。少年たちの行動は悪い方へ悪い方へとエスカレートしていきます。
この物語は、事件が終わったのちに、関係した少年の妹が別の関係者の少年に秘匿されている顛末を聞き出すという趣向になっています。尋問される少年は生徒たちの中でもっとも経済的に苦境に立たされている立場の弱い子で、妹は富豪の娘。この妹が自分の加害性にまったく気づいていないというのが、またやりきれません。手法を含めて、徹底して悪趣味ですばらしい作品です。