『路上のストライカー』(マイケル・ウィリアムズ)

路上のストライカー (STAMP BOOKS)

路上のストライカー (STAMP BOOKS)

岩波書店「STAMP BOOKS」の第6回配本は、南アフリカのYAです。
「STAMP BOOKS」はカバーイラストのセンスがよい作品が多いですが、この本のデザインもすばらしいです。夕焼けの中でサッカーに興じる人々。内容を知ると、このデザインには彼らが火炙りにされる危険にさらされているという暗示が込められていることがわかり、戦慄させられます。
主人公はジンバブエで暮らすサッカーの得意な少年デオ。彼はムガベ政権下での反大統領派の虐殺に巻き込まれ、障害を持つ兄イノセントとともに南アフリカに亡命します。
作中で明言されていませんが、兄はおそらく自閉症者です。大統領の手先に包囲されたとき、デオは兄がパニックに陥る引き金をわざと引き、狂犬病だと脅して敵を退けます。大好きな兄をこのようなかたちで傷つけてまで生き延びなければならない状況の厳しさに圧倒されます。
デオの苦難はこのあともまだまだ続きます。南アフリカに渡るためにはワニのいる川を越えなければなりません。南アフリカにたどり着いてもそこは安住の地ではなく、外国人排斥運動の脅威にさらされます。決定的な破局が訪れるまで、緊張感が途切れることはありません。
しかし、破局ののちにあのようなかたちで主人公と物語を弛緩させてしまうとは。レイシズムやブラック労働・薬物汚染等、この作品で描かれている不幸は日本人にとって全然他人事ではありません。まさにいま読まれるべき作品だといえるでしょう。