その他今月読んだ児童書

大福屋の仕事で忙しくて厳しい母親が、キツネが化けたものではないかと疑う話。リズム感のある文章で、低学年向けの作品として楽しい内容になっています。化けたキツネに対する憎しみをまったく持たないという、作品世界の優しさが独特です。
ナーダという名の少女

ナーダという名の少女

様々な世界が混濁するブラジルの話。ラテンアメリカ角野栄子が楽しめます。
小川未明新収童話集 1 明治39-大正12年

小川未明新収童話集 1 明治39-大正12年

講談社の全集に収められていない未明童話を集めた作品集です。第1巻では、未明初の童話「百合花」から大正末期までの作品が収録されています。「百合花」は、近所のおばあさんに怒られた少年が沼にはまって死ぬ話。未明ははじめから未明でした。岩崎書店の「ストーリーで楽しむ日本の古典」シリーズが、約1年ぶりに再開しました。金原瑞人の『怪談牡丹灯籠』は、地の文を常体に改めているほかはストーリーや表現の改変はほとんどなく、原作に忠実です。円朝作品の普遍的なおもしろさを考えれば、これが正しい判断です。『怪談牡丹灯籠』の怖さは、恋人の亡霊に殺されることにあるのではありません。侍としての規範に忠実すぎるあまり理不尽で壮絶な死を自ら選び取る平左衛門の狂気こそが、この作品の肝です。金原瑞人の読みやすい訳文と佐竹美保の闇の濃さを感じさせる挿絵は、その不条理な人情の世界を再現するのにぴったりです。
ゾウの鼻が長いわけ――キプリングのなぜなぜ話 (岩波少年文庫)

ゾウの鼻が長いわけ――キプリングのなぜなぜ話 (岩波少年文庫)

動物の特徴の起源などを語るホラ話集。話がおもしろいのはもちろんですが、キプリング自身の手による遊び心にあふれた挿絵も魅力的です。
スターターズ (新潮文庫)

スターターズ (新潮文庫)

細菌戦争により若者と老人以外が死に絶えた世界を舞台とした、アメリカのYAディストピアSF。老人は労働する権利を含めて富を独占していて、多くの若者はホームレス生活を余儀なくされていて、若者が大金を手に入れるためには神経接続で老人に肉体を貸し出さなければならないという、究極の格差社会が描かれています。サスペンス性が高く、500ページを一気に読ませる作品になっていました。