『野性に生きるもの』(ジョン・ドノバン)

野性に生きるもの (現代のジュニア文学)

野性に生きるもの (現代のジュニア文学)

ニューハンプシャーの荒野の農場でほぼ自給自足で生活する家族の話……のはずが、開始2ページで猩紅熱にかかったりガラガラ蛇に噛まれたり猟銃自殺したりして、13人いた家族が3人に減ってしまいます。8ページ読むとさらにふたりが死んで、ジョンという青年だけが取り残されます。ナンナノコレ?
ジョンはサンと名付けたオオカミのみを友として、農場を切り盛りしていきます。しかしたったひとり(と1匹)でやっていけるはずがなく、当然のように破滅のときを迎えることになります。
彼には商取引をする相手はいますが、困ったときに手をさしのべてくれる隣人はいません。さらに、この家族は税金を払っていなくて行政上は存在しないも同然になっているので、そっちの支援も期待することができません。強引に現代の社会問題に結びつけると、無縁社会の闇を描いているようにもみえます。
もちろん、この作品の主題はその程度のものではありません。誰にでも平等に訪れる滅びがテーマです。

神は生もかんたんにあたえるが、同じように死もかんたんにあたえてしまう。
ちくしょう、兄きや姉きがそうじゃないか。とうさんもかあさんもそうだった。みんな死んでしまった。死ぬということも、生きるということと同じくらい、あたりまえのことだ。(p87〜p88)

サンとふたりきりで過ごす終盤の場面は、おそろしいほど静謐で美しいです。この作品を読んでしまった子どもは、さぞや深いトラウマを刻みつけられたことでしょう。