『砦』(モリー・ハンター)

砦 (児童図書館・文学の部屋)

砦 (児童図書館・文学の部屋)

2000年前のケルト世界を舞台にした歴史児童文学です。
スコットランド北部にあるオークニー諸島の人々は、ローマ人の奴隷狩りにおびえて暮らしていました。足の不自由な青年コルは高い砦を量産してローマ人と戦うという策を考え、建設するときに足場を組むための材木が不足しているという問題を解決するための名案も思いつきます。ところが族長とドルイドの権力争いに巻き込まれ、せっかくの名案が宙に浮いてしまいます。
ということで、物語の大部分はローマ人そっちのけで部族内の内部闘争になります。このどろどろとした陰謀劇がとてもおもしろいのです。タランというローマから逃げてきた男が暗躍して、ドルイドをたぶらかしたり他部族も巻き込んで権力を拡大しようとしたりして物語をひっかきまわしてくれます。このタランの権力欲にとらわれた悪党っぷりが魅力的で、ぐいぐい作品世界に引き込まれていきます。
世俗的な政治闘争もおもしろいですが、呪いをかけるドルイドや予知能力を持つ少年も登場したりするケルトっぽい神秘性もよい味付けになっていて、作品を引き締めています。
もちろん内部闘争だけでなく、終盤のローマ人との決戦もそれはもう盛り上がります。
タイトルや題材が地味っぽいのでなかなか手に取りづらい本ですが、極上のエンターテインメントになっています。