『おしゃれ教室』(アン・ファイン)

おしゃれ教室 (児童図書館・文学の部屋)

おしゃれ教室 (児童図書館・文学の部屋)

アン・ファイン作・灰島かり訳という文字列を見て、まず惨劇の予感を持ってしまうみなさん、こんにちは。この本のカバー袖には「声を出して笑ってしまうほど、とってもゆかいなお話です」と書かれています。それは嘘ではありませんが、大部分は不条理ホラーになっています。
母親が簿記の講習を受けているあいだ、ボニーはカルチャーセンターで過ごさなくてはならなくなります。べつに家で留守番をさせていればよさそうなものですが、訳者のあとがきによると治安の悪いイギリスでは子どもをひとりで家に放置できないとのこと。そういうわけでどの講習を受けるか選ばなくてはならなくなりますが、年齢的に受講可能なのはまったく興味の持てない《女の子のためのおしゃれ教室》しかありませんでした。受講生は本気でモデルを目指しているような子どもばかりで、ボニーとはまったく違う世界に住んでいます。どう考えても針のむしろで過ごす1日にしかなりそうにありません。アン・ファイン、よくもこんな地獄のような設定を考えついたものです。
外見を磨くことしか考えていない受講生や講師は、ボニーにとっては理解不能な存在で、教室は理性的な言葉の通じない不条理な空間になります。受講生のひとりとしてこの空間にいるのは耐えられないけれど、逃げ出したら母親に迷惑をかけてしまうので、ボニーは照明技師の助手のふりをして教室に居座ります。そしてちょっとした騒ぎを起こし、美しく「いること」だけを強いられている女の子たちの心を解放します。
教室で過ごすうちにボニーは、おしゃれ文化圏にもわずかながら合理性があることを知ります。そして異なる文化圏同士の共生の道を探ります。中盤までの不条理ホラーからのさわやかな逆転劇が楽しい作品になっています。