『なんでそんなことするの?』(松田青子)

なんでそんなことするの? (福音館創作童話シリーズ)

なんでそんなことするの? (福音館創作童話シリーズ)

嘘ばっかり! 嘘ばっかり! ウォータープルーフ嘘ばっかり!
(「ウォータープルーフ嘘ばっかり!」(『スタッキング可能』所収)より)

2013年に刊行された『スタッキング可能』で話題をさらった松田青子の初の児童文学作品。児童文学界ではすでに、カタツムリが一本の枝からほぼ移動しないまま大冒険をするへんてこな冒険小説『はじまりのはじまりのはじまりのおわり』の訳者*1としても知られています。
「ミソサバ」「サバミソ」という合い言葉でネコ(?)のミケと通じ合っているトキオは、なぜか学校生活が憂鬱な様子。心配したミケが学校についていくと、トキオはクラスのみんなからぬいぐるみのトラを持ち歩いていることを責められて、ぬいぐるみを奪われ焼却炉に捨てられようとしていました。ミケはぬいぐるみを奪おうとした男子をひとのみにしてしまいます。さらに、ある子の周辺だけ雨を降らせたり、ある子の周辺に灰色の暗い空気をまとわりつかせたり、ある子の机の中にハリネズミの一家を住まわせたりと、ほかの連中にも奇想天外な復讐をしていきます。
やだなあ、クラスのみんなのやっていることがいじめなわけないじゃないですか。男子がぬいぐるみを持ち歩くのは「おかしい」ことだから、「ユウジョウ」で正しい道に導こうとしているだけじゃないですか。すべては「トキオくんのため」なんですよ。
もちろんそんなわけなく、これはれっきとした犯罪なんですが、学校という空間ではそんな理屈は通用しません。

「わかってないなあ、トキオくん。ひどいことは言っていいことじゃないんだよ。やっていいことじゃないんだよ。がまんしたり、平気なふりをしたりして、いじわるしたり言ったりすることはそんなに悪いことじゃない、みたいにみんなしてるけどさあ、本当にひどいことなんだよ、それは。ぱくって食べられちゃうのがあたりまえのことなんだよ。ぼく、こういうのはほんといやなんだ。」
(p16)

しかし、トキオにしてみると、クラスで起こっていることを悪だと断じ復讐をするミケのほうが理不尽な存在に見えます。いや、ミケが理不尽なのではなく、理不尽な状況に甘んじている人間には正論でそれを改善しようという人間のほうが理不尽に見えてしまうという状況が理不尽なのです。
『スタッキング可能』で代替可能な存在として社会に生きることの理不尽さを理知的に分析した松田青子、学校空間の理不尽さもみごとに暴き立てています。児童書に限らず、様々な分野で今後の活躍が期待されます。