『ナウなヤング』(水玉螢之丞・杉元伶一)

ナウなヤング (岩波ジュニア新書)

ナウなヤング (岩波ジュニア新書)

俗流若者論を論理的に叩きつぶす言説は、いままでにいくつも出ているはずです。しかし、俗流若者論の人は浜の真砂より数多く、ゴキブリのようにしぶといので、根気強く丁寧に駆除していく必要があります。そんな重要な役割を果たした論のひとつが、1989年の岩波ジュニア新書『ナウなヤング』です。もちろんこのタイトルは、いまどき(89年に)「ナウなヤング」とか言ってしまう老害の方々を揶揄したものです。
当時新進のイラストレーターだった水玉螢之丞と、同じく当時新進の作家だった杉元伶一の共著。大人と若者をつなぐ役割を期待されていたふたりが、その期待をかわしながら、中高生に生きる指針を与える内容です。大学生活や消費文化、恋愛といったテーマに対し、まず杉元伶一が調査報告風だったり漫才風だったりする工夫を凝らした文章を書き、さらに水玉螢之丞が漫画で茶々を入れるという構成になっています。両者とも観察眼がシビアでなおかつユーモアに長けていて、示唆に富んだ楽しい読み物になっています。
四半世紀も前の本になるので、大学生活の様子などはさすがに参考にはなりません。しかし、歴史的資料として読むとかえっておもしろいです。また、こまごました生活の知恵なども、いまでも参考になるものもあります。「おしゃもじを水につけたままほったらかしとくと、キノコが生える。ほんとだよ」という水玉螢之丞経験談など、いつか実験してみたいと思います。
この本の中で白眉なのは、水玉螢之丞による若者の分類です。彼女は「現代の若者」を論じることの不毛さをまず徹底的に暴き、果てしなくハードルを上げたうえで若者を分類するという暴挙に出ます。「すごい人々」「いちおうの人々」「よくばる人々」「思いこむ人々」という彼女の4分類は、「まだ何者でもない」「未分化」な若者を、「軌道変更が可能」な存在であるという点に希望をおいて論じたものになっています。若者の生き方の指針としては普遍的な内容なので、いまでもまったく古びていません。