『少女探偵月原美音』(横山佳)

少女探偵 月原美音

少女探偵 月原美音

探偵京川七海の事務所には、2名の小学生の押しかけ助手がいました。行方不明の父親を捜すために無理矢理弟子入りした月原美音と、行方不明の愛犬を探すために無理矢理弟子入りした春野真菜。こんな探偵事務所の面々が、古美術品を狙う怪盗ジェントと追いかけっこをする話です。
作品の時代設定は90年代になっているとのことですが、古美術品を専門に狙う変装名人の怪盗が活躍するなど、材料はさらにレトロ趣味になっています。
京川七海は設定上は数々の難事件を解決して警察からの信頼も厚い名探偵ということになっていますが、作中では手柄はほとんど美音に奪われており、怪盗の挑戦状も七海宛ではなく美音宛にされるというぞんざいな扱い。怪盗も正体を隠す気は全くなく、真犯人の犯罪計画もおおざっぱ。もしかしたら、現代の本格色の濃い児童書ミステリを読み慣れている読者は、この作品をぬるさを欠点と感じるかもしれません。しかし、ぬるさこそがこの作品の長所になっているのです。
月原美音と春野真菜は、事務所入りした経緯から、それぞれの課題が果たされればそこを去らねばならないことになります。ということはこの作品は、子どもの居場所・遊び場所をめぐる物語という側面を持つのです。探偵事務所を子どもの遊び場所とするなら、探偵も犯罪者もぬるい大人であった方が楽しくなります。この作品のよさは、レトロ趣味で子どものための楽しい遊び場所を提供したところにあります。