『消えた犬と野原の魔法』(フィリパ・ピアス)

消えた犬と野原の魔法 (児童書)

消えた犬と野原の魔法 (児童書)

フィリパ・ピアスの遺作。飼い犬ベスに逃げられてしまった少年ティルが、不思議なおじいさんとともに犬探しをする話です。
おじいさんは、庭木戸の向こうに突然現れ、ティルの夢をのぞいてティルの悲しみを知ったのだと、奇妙なことを言います。ティルが事情を話すと、おじいさんは「木戸をあけて、こっちにきなさい」と呼びかけます。このとき、ティルが木戸を開けようとするとなにかに刺されたような痛みが走ることが繰り返され、3度目で木戸を開けることに成功します。こうやって、別の世界に足を踏み入れるのにわかりやすく手順を踏んでいるのがいいですね。しかし、このパターンは行かない方がよかったやつなのでは……。
捜し物を依頼すると、おじいさんはまるで探偵のように振る舞い、原っぱの動物たちに聞き込みを開始します。ただしそのためにはなかだちとなるものが必要で、ベスが川辺の泥の中で見つけたヒーローのおもちゃ〈どろんこマン〉を利用することになります。モグラから情報を聞き出すためにモグラ穴に〈どろんこマン〉をつっこんで、押し返されて泥の雨をあびたりするさまが笑えます。このあたりは条理が立ったファンタジーになっています。
しかし、終盤になるとおじいさんがわけのわからないことを言い出し、物語はぶん投げられたかのようになり、人を食ったような結末になります。条理と不条理のバランスがよく、ファンタジーの醍醐味を味わわせてくれます。
フィリパ・ピアスの娘のパートナーの母であるヘレン・クレイグのイラストもすばらしく、これぞ子どものためのファンタジーといえるような魅力を持った本になっています。