『新妖界ナビ・ルナ11 伝説の御子へ』(池田美代子)

もっとみんなと話したかった。もっとたくさんのひとと出会いたかった。もっとたくさんのことを知りたかった。もっと生きて自分の未来を歩みたかった。
もっと、もっと、もっと。
(p152)

「妖界ナビ・ルナ」全10巻(フォア文庫岩崎書店)・2004年〜2007年)「妖界ナビ・ルナ2」全2巻(フォア文庫岩崎書店)2007年〜2008年)「新妖界ナビ・ルナ」全11巻(講談社青い鳥文庫・2009年〜2015年)。家族を奪われ、身体と精神を傷つけられ、、寿命を奪われ、長いあいだ奪われ続けてきた竜堂ルナに、やっと終われるときがきました。
11巻のはじめ、宿敵カイリュウの前に立つルナとともにいるのは、鳥と虫の魂を入れられた透門ナナセと御庫裏雛子、双子の死体だけです。双子の弟タイくんの不在に悩まされていたルナにとって、これ以上ひどい状況は考えられません。
さらなる試練がルナに襲いかかります。今度は、家族が生きていて自分が普通に学校に通えるありえなかった世界の幻影を見せられるのです。すべてを奪われ続けてきたルナにとっては、最悪の拷問です。
しかし、この程度のことで竜堂ルナが負けるはずがありません。ルナの最大の武器は献身です。これを武器に戦うルナの姿のすさまじさといったら、どんな悪よりも恐怖を感じさせるくらいです。
結局竜堂ルナとは何者だったのでしょうか。児童文学でたとえるなら、おそらくナルニアアスラン宮澤賢治作品のあるタイプの登場人物と同種の存在であると理解すべきなのでしょう。
この竜堂ルナのキャラクターによって、「妖界ナビ・ルナ」は21世紀の日本児童文学における最良のシリーズのひとつになりました。