『最初の舞踏会』(平岡敦/編訳)

最初の舞踏会 ホラー短編集3 (岩波少年文庫)

最初の舞踏会 ホラー短編集3 (岩波少年文庫)

佐竹美保のカバーイラストが怖すぎる。
『八月の暑さのなかで』『南から来た男』に続く、岩波少年文庫のホラー短編集第3弾です。翻訳は金原瑞人から平岡敦になり、フランスのホラー短編・シュール短編・幻想短編が集められています。岩波書店が本気で子ども向けに不健全図書をつくったらこうなるのだという、岩波の暗部を見せつけるような本になっています。
収録作はすべて平岡敦の新訳で、モーリス・ルブランアンドレ・ド・ロルドの本邦書訳作品も収録されています。トップバッターはペローの「青ひげ」と、はじめからとばしています。このなかから特におもしろかった作品をいくつか紹介します。

「最初の舞踏会」レオノラ・カリントン

この衝撃的なカバーイラストのもとになっている作品。舞踏会に行くのが面倒なお嬢さまが、友達の雌ハイエナにドレスを着せて身代わりにしようとする、シュールな物語です。どう着飾っても顔は隠せないので、メイドを食い殺して顔の皮を入手するというアイディアを実行してしまうハイエナの賢さと食い意地のはり具合が、なぜかかわいらしく思えてしまいます。

「心優しい恋人」アルフォンス・アレー

凍える恋人のため、奇想天外な自己犠牲的な手段で暖をとってあげる男の話。訳者あとがきで「読んでいて思わずお腹が痛くなっちゃうかもしれないのでご注意を」と警告されているように、精神より身体にダメージを与えるホラーです。真実の愛の姿がここに!

「沖の少女」ジュール・シュペルヴィエル

大西洋の海上に浮かぶ不思議な村にたったひとりで暮らす少女を描いた幻想短編。ありえない状況下での日常が淡々と描かれていて、なんともいえない静謐な空気が漂っています。波にのまれても死ぬことすらできない少女の圧倒的な孤独が、静かな恐怖を呼び覚まします。