『鮎はママの子』(石井睦美)

鮎はママの子 (ホップステップキッズ!)

鮎はママの子 (ホップステップキッズ!)

小学3年生の少女鮎の一年間の日常の出来事を、主に母親との交流を通して描いた作品です。
鮎の視点と母親の視点が頻繁に入れ替わるので、まだ幼年を脱しきれていない子どもと大人の認識のギャップがあらわになるのがおもしろいです。
第3話で鮎は、道の真ん中で両手を広げて立って、自分はいま川の中にいるという空想遊びをします。その現場を目撃した母親は、車が来る前に鮎を安全な場所にどかそうと必死になります。それで適当に話を合わせていると、鮎から「ママさあ、鮎を道のはしっこに寄せようとしてそういったんでしょ」と意図を見抜かれてしまいます。どっちが冷静なんだかわけがわからなくなってきます。
そして第5話では、「女の子」が「さかい目」と名乗る謎の声に導かれて川と海の境界を目撃する不思議なエピソードが展開されます。女の子は「このあいだ、鮎が泳いでいくといった川はこの川じゃなかったかしら」と思い至ります。そこで女の子は大人の女のひとになり、やがてこれが鮎の母親の見た夢だったことがわかります。ここではあらゆるものの境界が攪乱され、大人と子どもの差も無意味になります。