『リフカの旅』(カレン・ヘス)

リフカの旅

リフカの旅

人が人に生きる資格を審判されるとはどういうことなのか。この物語の主人公のリフカは、そんな地獄のような不条理を体験します。
時は1919年、ユダヤ人の少女リフカは、家族とともにウクライナからアメリカへ旅立とうとします。のちにリフカは、自分たちが「移民」という立場になるのだと知ります。しかし、白癬にかかっていたため、リフカだけがワルシャワで足止めされます。リフカはベルギーで白癬を治し、アメリカへ向かいますが、今度は思わぬ理由で「社会の負担」になる「好ましからざる移民」と認定され、入国を拒否されてしまいます。リフカにとってこれは、生きる資格を否定されるに等しい体験でした。
現代の視点からは、リフカを「社会の負担」とみなす考え方はあまりにばかばかしいものにみえてしまいます。だからこそ、そんなくだらない考え方で運命を左右されてしまう不条理感は耐え難いものになります。それに、現代でもこれと同じような理由で人の生を否定する者は絶滅しているわけではありません。
そんな重い作品の翻訳が、こともあろうに伊藤比呂美ですよ。ざらざらぬめぬめした手で読者の内臓をなでつけるようなあの文体で、こんな地獄が語られるのですから、それはもうね。