『わすれものの森』(岡田淳・浦川良治)

わすれものの森

わすれものの森

忘れものの森 (文研子どもランド)

忘れものの森 (文研子どもランド)

1975年に文研出版から刊行された『忘れものの森』が、微妙に改題されてBL出版から復刊。岡田淳と図工教員仲間の浦川良治がアイディアを出し合い、文章と人物を岡田が担当、背景を浦川が担当というかたちで共作していたそうです。
もうすぐ音楽会があるというのに笛をなくしてしまった小学3年生のツトムは、仕方なく放課後の学校に笛を探しに行きます。そこで、忘れものを森に持っていく役割を務めている黒マントの2人組の男に出会います。ツトムはふたりの帽子を人質にして、忘れものの森に連れて行くように強要し、空を飛ぶ椅子に乗って旅立ちます。
忘れものをしたというだけのことで世界からはじき出されたかのような心細さを感じてしまう子どもの気持ちが、うまく再現されています。禁止されている放課後の学校に潜り込むだけで、まるで犯罪者になったかのような後ろめたさを背負ってしまうという気分から、スムーズに不思議な世界に導いてくれます。

あんなにたくさんの友だちが、大声でさわいでいた昼間と、同じ場所とは思えない。いやに静かで、だれかが、かくれているような気がする。ほんとうに、階段の下のうすくらがりなど、だれかが、うずくまっているように思って、どきっとした。
(文研出版版p14)

忘れものの森があるのは、四方が切り立った崖になっている四角い島でした。このいかにも人工的な感じも楽しいです。「リリリリリメンバーー。」と鳴く鳥や、忘れものの歌を歌いながら椅子に乗って空を飛ぶ黒ずくめの集団などは、不気味な雰囲気を盛り上げてくれます。
新版に加えられた巻末の「わすれものの森から『わすれものの森』をとりもどすまで」と題されたあとがきでは、文研出版版で使用された岡田淳浦川良治の共同ペンネーム〈ねべりよん〉の由来が明かされています。ここで〈ネベリズム〉という深遠な芸術思想が披露されているので、ぜひ読んで確かめてみてください。