『笑い猫の5分間怪談1 幽霊からの宿題』(那須田淳/責任編集)

那須田淳責任編集によるホラーアンソロジー。忘れ物を取りに夜の学校に行った兄妹が、チェシャ猫のような化け物に捕まって怪談を聞かされるという設定になっています。
ポプラポケット文庫の「本の怪談」シリーズでいまや児童書ホラーの第一人者となった緑川聖司が本の大半を埋めており、他の作家は1人1作ずつ作品を出しています。他のメンバー松原秀行・越水利江子芝田勝茂富安陽子令丈ヒロ子那須田淳と手堅いです。
なかでも白眉だったのが、令丈ヒロ子の「ハート大好き・失恋妖怪ユーレミ」です。ユーレミは、失恋した女子の前に現れ、恋するハートをもらって失恋の痛みを癒してくれるという妖怪です。「好きな男の子に、半径十メートル以内に近よるなっていわれてね。そのショックで川に落ちてそのまま死んじゃったんだ」という自己紹介のセリフからすでに、危険なにおいがプンプン漂っています。
ユーレミの造形の過剰さが恐ろしいです。金髪ツインテールで、透明なおなかには女子から奪い取って食べたカラフルなハートがつまっています。空腹から本性を現すと、流れ出したよだれの色がなんと蛍光ピンク。カワイイ文化に飲み込まれつつそれと共犯関係を結んでいる女子の不気味さが表出されているようです。そのイラストをokamaが描いているのだから、もう。
令丈ヒロ子には『メニメニハート』や『ダブル・ハート』と、ハートが重要なモチーフになる代表作があるので、この短編も令丈作品を語る上で欠かせないものになりそうです。