『ささやかな奇跡 ペンダーウィックの四姉妹2』(ジーン・バーズオール)

ペンダーウィックの四姉妹2 ささやかな奇跡 (Sunnyside Books)

ペンダーウィックの四姉妹2 ささやかな奇跡 (Sunnyside Books)

個性的な四姉妹の日常を幸福感たっぷりに描いた「ペンダーウィックの四姉妹」の2巻が登場。クレアおばさん(父の妹)が父の再婚を世話しようとデート相手の候補をさがしはじめたので、四姉妹は継母の侵入を阻止するために悪巧みを画策します。
年齢も性格も全然異なる姉妹なので、姉妹間の温度差が騒動を巻き起こすのが楽しいです。長女のロザリンドは継母が来るのがいやで錯乱していますが、年少の妹たちはそこまで深刻になっていません。いつもの調子でスカイが「お父さんがいやがる相手を」さがして見合いをぶちこわそうという適当な提案をすると、なんとロザリンドはその提案に賛成してしまいます。常識人の姉は止めてくれると思っているから安心してふざけていたのに、錯乱した姉に提案を受け入れられてスカイはかえって困ってしまいます。
継母騒動と並んで2巻の大きな軸になるのが、武闘派文学少女ジェーンと武闘派理系少女スカイの宿題交換事件です。理系と文系、それぞれの苦手な分野の宿題を交換したふたりですが、ジェーンが書いたアステカ族をテーマにした戯曲があまりにうますぎたために、それを芝居にして上演することになり、作者(ということになっている)スカイが主演も務めさせられることになります。この取引でジェーンは自分の作品が褒められていい目に遭っているのに、スカイは嘘をついた罪悪感に苦しめられた上にやりたくない芝居までさせられるという最悪の立場に追い込まれます。罪の重さはふたりとも同じなのに、それぞれに与えられる罰の重さが違いすぎるため、道徳的な説教になっていないところがいいです。第2巻では、スカイばかりが割を食っているようです。
1巻と同じく、姉妹がただ遊んでいるだけの場面の細部の楽しさも健在。たとえば、スカイがサッカーの試合の前に準備をする場面だけでも笑えます。

試合の前に行うことは決まっている。前屈十回、首回し十回、腕立て伏せ十回、腹筋三十回、つぎに集中力を高めるために素数を811まで列挙して、そのあと5分間、相手チームがぼこぼこにやられているところを想像する。(p51)

そのあといつものようにキレないようにするため、5分間建設的なことを考えるように父から指示されていますが、スカイはこれが苦手で「五分間建設的なことを考えるためには、少なくとも十五分かかってしまう」という奇妙な事態になってしまいます。
ちなみに、スカイと同じチームでサッカーをする文学少女ジェーンは、サッカー中はミック・ハートというイギリス出身のサッカー選手の別人格が目覚めるという設定をつくっており、試合中イギリスなまりでわけのわからないことを叫びまくるというやっかいさ。姉妹の狂った個性が細かいところにまで生かされています。
1巻と同じく、幸福感たっぷりの楽しい本になっていました。既刊あと2冊の邦訳も、できるだけ早く出してもらいたいです。