『へなちょこ探偵24じ』(齊藤飛鳥)

へなちょこ探偵24じ (単行本図書)

へなちょこ探偵24じ (単行本図書)

今日も地球のどこかで、オゾン層が破壊され、熱帯雨林は焼き払われ、砂漠は広がっていく。異常気象で農作物が育たずに飢えて死ぬ子どもたちを紹介するニュースに夢中で、目の前の子どもがいじめられて一生懸命に助けを求めていても耳を貸さない大人がいる。
太陽は、そんな人間たちの行いを残さず見ては、ときどき雲のカーテンを下ろして隠れてしまう。そして、カーテンの奥で地球人たちのおろかさに、そっと涙を流す。まったく、地球に欠かせない太陽も、こう考えると人間と変わりやしない、もろくて弱い存在だ。
(p118)

このハードボイルドっぽい語りが何を意味しているかというと、雨で遠足が延期になったことを嘆く小学生の愚痴です。
この作品の語り手は矢間鯱彦は、ハードボイルドすぎるあまり学童保育から追い出されてしまった武勇伝を持つ小学5年生。鯱彦は白帽子白スーツの頼りにならなそうな探偵24じ(廿余寺れいじ)と偶然知り合い、24じの関わる5つの事件の目撃者となります。
たとえば第2話では、学校にやってきたモンスタークレーマーを24じが防犯教室のアシスタントだと勘違いして、犯人役として全校生徒の前で公開処刑するという展開になります。悪人が徹底的に痛めつけられる爽快感のあるギャグで、優秀なのか天然なのかわからない、つかみどころのない24じのキャラクターを印象づけています。
24じが対峙する悪は、モンスタークレーマーや万引き犯・子を持つ資格のない親など、普通の日常の隣にあるようなありふれた悪です。そのため、卑劣な犯罪に対するむかつき度は非常に高いものになります。鯱彦の傍からみればイタい語り、探偵業よりスイーツ作りの方が得意という24じのゆるいキャラクターなど、笑いを誘う要素の強い作品ですが、それ以上に描かれている胸くそ悪い現実のシビアさが読者の胸を刺します。
そして、犯罪が鯱彦の日常を侵食した最終話では、学校が鯱彦にとっての戦場となってしまいます。ハードボイルドを装った鯱彦の語りには、いとも簡単に日常が戦場に変容してしまう現実への怒りと絶望が隠されています。ハードボイルド調の語りをギャグとしてのみ捉えることはできません。この文体の主眼は、冷めているふりをしなければ自分の精神を守ることができない小学生の哀しみをあぶり出すことにあります。
戦略的な語り・戦略的な状況設定で、小学生の置かれている現実を描き出すことに成功した作品になっています。