『みんなのおばけ小学校』(市川宣子)

みんなのおばけ小学校 (こころのつばさシリーズ)

みんなのおばけ小学校 (こころのつばさシリーズ)

入学式の記念写真におばけが写りこんでしまったために児童が次々と転校していき、あれよあれよという間に廃校の危機に陥ってしまった桜小学校。残った児童は5人だけ、残った教職員は、桜小学校の校長になるため久しぶりに故郷の桜町に帰ってきたかほる先生だけ。かほる先生は、すでに亡くなって幽霊になってしまった元同級生の助けを借りて、学校の建て直しを図ります。
寂れた町が舞台で、町を出て行った人が帰ってくる理由はお墓に入ること以外に考えられないため、かほる先生も幽霊たちから、てっきり死んだものだと思われて歓迎されてしまいます。ゆるいようでシビアな現状認識が、ふしぎと味わい深い空間を作り上げています。
実際の教職員はかほる先生だけ(事務職員や給食の調理員もいない)という超ブラック職場ですが、幽霊たちが手伝ってくれるので、結果的に少人数に手厚い教育ができる理想的な学校ができあがりました。小学校時代はかほる先生と学級委員ペアを組んでいた元校長の太井ぼんたろう、元大工のじろちゃん、元三ツ星シェフのけんけん、6歳でなくなったため児童を対等に遊べるかほる先生の初恋の男子ごんちゃん、いろいろな実務を任せられる頼もしいメンバーが、楽しく学校を盛り上げていきます。
この作品のよいところは、体育教育批判が盛り込まれているところです。桜小の児童の中に、運動会のむかで競争でつまずいたためにいじめられた経験を持つ子が登場しています。幽霊のけんけんは、「だいたい大なわとびとか、むかで競走とか、ほんとにきらいだった。いつかかならず、だれかがつまずくのにきまってるのにさ」と、このような集団活動がいじめを誘発しているということを暴いてしまいます。元校長のぼんたろうも、かけっこはいつもビリだったけど校長になれたと自慢を始めます。学校ではなぜかスポーツに異様に入れ込む価値観がまかり通っているので、そこで居心地の悪い思いをしている子どもに、世の中にはほかの価値観もあるのだということを伝えられる作品は貴重です。

むかで競走でつまずこうが、大なわとびを引っかけようが、なにをいばったりいじめたりすることがあるんだか。いきつく先はみーんな同じ、ただのおばけなのにね。
(p62)