『海色のANGEL 1 ルーナとノア』(池田美代子/作 手塚治虫/原案)

長大なファンタジーシリーズ「妖界ナビ・ルナ」を今年完結させた池田美代子の新たなシリーズは、手塚治虫の少女まんが『エンゼルの丘』の翻案となりました。奇をてらわず王道の物語を丁寧に語った「妖界ナビ・ルナ」で人気を博した池田美代子が、着想の元をすこし古めのまんがに求めたことは、きわめて自然な流れにみえます。この作品もきっと物語のおもしろさの神髄を子どもたちに伝えられるシリーズになることでしょう。
残忍な祈祷師ピューマが支配する島から追放され記憶を失った少女ルーナは、宗源という富豪の家にひそかに引き取られることになります。その富豪の娘ノアがルーナと生き写しであったため、ノアの兄の海は影武者としてルーナを家に入れるつもりでしたが、情が移ってやがては正式に養子に迎えると約束します。
画業に入れ込んで(原作ではヒョウタンツギの絵ばかり描いている)家庭を顧みない母親に反抗し、小学校でも不良扱いされているノアは、ルーナを自分の身代わりに仕立て上げて嫌な習い事をさせたりして都合とよくこき使いますが、だんだんルーナの善良な性格に感化されていきます。
そっくりさんの入れ替わりをきっかけにしたすれ違い劇というレトロ少女まんが展開を、池田美代子は上品な筆致でみごとに楽しい児童文学に生まれ変わらせています。
第1巻では原作のおよそ4分の1ほどのエピソードが語られています。1巻の時点での大きな改変点は、ノアも島とは別口の犯罪グループに狙われているという設定を付け加えていることと、原作にはいないノアの学校の友人を登場させていることです。ここを生かして原作からストーリーをずらしていくとしても、原作に忠実にストーリーを進めていくとしても、池田美代子であれば上質の物語に仕上げるであろうことは間違いありません。
ただひとつだけ不満点を述べると、池田作品にしては血しぶきが全然足りません。原作の筋を大幅に変えてでも、血しぶきは増量してもらいたいです。