『あらしの白ばと 第1部・赤いカーネーションの巻』(西條八十)

いま日本じゅうの女学生の間で大評判の白ばとグループっていうのはいったいなんのことなんでしょう? この小説なのです! これをお読みになればわかるのです。さあ、どうぞ……
(p213)

http://d.hatena.ne.jp/seirindou_syobou/20151204/1449226248
西條八十の伝説的怪作少女小説の復刻版が、芦辺拓の監修で書肆盛林堂から出ました。
白ばと組を名乗る3人のお嬢さまが、悪の組織に狙われた薄幸の少女を助けるため大活躍する冒険活劇です。お嬢さまが拳銃をぶっ放すくらいは当たり前。乱闘、乱闘また乱闘のとんでもなく豪快なストーリーが展開されます。
白ばと組のリーダー日高ゆかりは、拳銃の名人でえらく肝の据わったお嬢様。メンバーの辻晴子は新聞の求人広告を見ただけで恐るべき犯罪計画を見抜く頭脳派。もうひとりのメンバーの吉田武子は、〈おとめべんけい〉というあだ名がつくくらい腕っぷしが強く、怒りが爆発すると「なぐり殺してやる」と力強く宣言する武闘派少女。悪の組織側も毒蛇使いや変装の名人など怪人がそろっていますが、白ばと組と比べるとかなり分が悪くみえます。
特に日高ゆかりの豪胆さは異常で、わりと早い段階で悪の根拠地に押しかけようとするのですが、その動機がふるっています。

「わたし、もうめんどうくさいから、これから黒林一馬(悪の首領)のうちへ乗りこむわ」
(p80)

「めんどうくさいから」。豪胆なのかのんきなのかよくわかりません。
日高ゆかりは警視総監のおじを使って、好きなタイミングで警官隊を動かすことができます。ラストバトルでは警官隊を投入するのは序の口で、際限なく戦力をエスカレートさせていきます。だんだん悪役の方がかわいそうになってきて、しまいには「よく最後まで戦い抜いた」と悪党側の健闘を称えたくなるくらいです。
物語というものはここまでむちゃくちゃに突っ走ってもいいのだと、物語のおもしろさの原点を再認識させてくれる作品です。この本には雑誌掲載時の冒頭のアオリ文や次回予告も収録されているので、当時の読者のワクワク感を追体験しつつ一気読みできるという贅沢な体験ができます。