『降矢木すぴかと魔の洋館事件』(芦辺拓)

降矢木すぴかと魔の洋館事件 (YA! ENTERTAINMENT)

降矢木すぴかと魔の洋館事件 (YA! ENTERTAINMENT)

本格ミステリ作家芦辺拓が、落ちもの美少女探偵をひっさげて久しぶりに講談社YA! ENTERTAINMENTに登場。
学校では死んだふりをしている帰宅部エースの中学生・宝田光希の部屋で、いきなりわいてでた探偵を名乗る「どえらい美少女」降矢木すぴかがあやしげな工作を始めるところから、壮大な陰謀劇の幕が開きます。
主人公の部屋は某「国民的アニメの主人公の部屋」を思わせるつくりになっています。ということは、すぴかの役割は当然あれということになり、さまざまなひみつ道具が繰り出されることになります。カニの目のような潜望鏡を出して周囲の様子を偵察する冒頭から作品世界のギアが確定され、乱闘・爆発・兵器なんでもありの娯楽活劇が展開されます。某「国民的アニメ」っぽく、タイムトラベルまで可能という充実っぷりです。
非常にぶっとんだ娯楽活劇である一方で、侵略もののジュヴナイルSFや佐野美津男あたりの不条理児童文学のような、静謐で不穏な空気を感じされてくれるところも、この作品の魅力です。その空気をもたらすのは犯罪組織であり、不可思議な美少女であり、そして、それらとの関わりによって変化してしまった少年自身でもあります。探偵というキーワードで少年の変容を情感たっぷりに描くという技は、本格ミステリ作家であり、ジュヴナイル作家としても独自の見識を持っている芦辺拓ならではです。

彼女は、よく自分のことを〈探偵〉と名乗るけど、それは、日常の中にひそむ異変や危険にいちはやく気づいてしまう人なのかもしれない。その真相を解かずにはいられず、やむにやまれず行動を起こしてしまう人なのかもしれない。
すぴかと、そして物語で読んだ探偵たちと同じように、ぼくもみんなが気づかない変化に触れ、頼まれもしないのにそれを追っかけて……ほらこんなところまで来てしまった。
(p153)