その他今月読んだ児童書

人魚の島の謎をめぐる冒険譚『海色のANGEL』の第2巻。手塚治虫原作で池田美代子が書いているのですから、おもしろいに決まっています。オリジナルキャラの楓と樹里も漫才コンビとしてキャラが立ってきて、悲惨なストーリーの清涼剤になってきました。人魚が単性生殖するという設定は、たしか原作にはなかったと思います。もしここを広げるなら、生殖SFとしても興味深い作品になりそうです。緑川聖司・竹岡美穂のホラーシリーズが再始動。旧シリーズでは謎に包まれていた存在山岸良介がいよいよ姿を現します。霊媒体質の少年浩介は、怪談収集家を名乗る山岸良介に脅迫同然の方法で助手にさせられ、さまざまな怪談の現場に派遣されひどい目に遭うことになります。命令を聞かないと悪夢を見せたり、転ぶと2年以内に死ぬと噂されている坂でわざと足をひっかけて転ばせたりとする山岸良介の鬼畜っぷりが楽しいです。
次巻のタイトルは「山岸良介の冒険」であると予告されているので、タイトルの予想はしやすいですね。
アサギをよぶ声 そして時は来た

アサギをよぶ声 そして時は来た

「アサギをよぶ声」完結編。死人は踏み台にしてしまうという極限状況下での主人公の思い切りのよさなどおもしろいところはありましたが、三部作全体で提示された様々なテーマは消化不良感があります。主人公が種をもらうエピソードなどをみるに、この作品が目指すべき方向はマッドマックス4だったのではないかという気はします。獏の相棒となって、悪夢の世界に飲み込まれた人を救う役割を担うことになった少女の物語。主人公が相貌失認であるという設定が目新しいです。そのため主人公は集団生活が苦手なので、早く大人になって在宅でできる仕事に就きたいと願っています。このキャラ造形は一部の読者の共感を呼びそうです。
欲望の化身である悪夢の世界の化け物が、かなり気持ち悪く描かれています。1巻の敵など、巨大な塔の頂上の周囲に無数の人の顔が逆さに生えていて、それぞれが長い舌をつきだしているというおぞましいものになっています。気持ち悪いことはとことん気持ち悪く描くことで、子どもの心の暗い側面に向き合っているところに、廣嶋玲子のファンタジー児童文学作家としての姿勢があらわれています。