『賢女ひきいる魔法の旅は』(ダイアナ・ウィン・ジョーンズ/アーシュラ・ジョーンズ)

賢女ひきいる魔法の旅は (児童書)

賢女ひきいる魔法の旅は (児童書)

ダイアナ・ウィン・ジョーンズが亡くなる前に9割方書いていた原稿を、DWJの妹で自身も児童文学作家であるアーシュラ・ジョーンズが完成させた作品。
由緒正しい賢女の家系に生まれた少女エイリーンは、賢女になるための穴ごもりの通過儀礼に失敗してしまい、落ち込んでいました。そんなとき、優秀な賢女である叔母のベックとともに魔法の障壁に囲まれている島に侵入する使命を与えられます。
魔法の障壁を破るという目的は物語のはじめからはっきりしているので、DWJ作品としては話の筋が追いやすい、初心者にも親切な設計になっています。魔法の障壁については、そんなものが実際にあったらどんな事態になるのかということが、わりと理屈っぽく考えられています。島のまわりに障壁があったら川の水が海に流れずあふれてたいへんじゃないかなんていうことを考えてしまう細かさとか、意外な方面から障壁の突破方法を発案する妙な合理性が楽しいです。
旅を続けていくうちに、DWJらしいくせ者揃いのキャラクターがどんどん増えていきます。そのなかでもこの作品では、島々の守護獣らしい動物キャラたちの個性が際立っています。とくに目立つのが、とても不細工なネコ〈ブチブサイク〉。

見たこともないほどみにくいネコが、柱から柱へ元気よくとびうつりながら、こちらへやってくる。毛は白っぽく、灰色のしまや斑点がはいっている脚がひょろひょろで曲がっていて、しっぽもヘビみたいにひょろ長い。平たい三角みたいな顔に対して耳がやたらと大きく見える。目も大きく、こわれた暖炉のところにあったタイルの青と緑がまざったような色をしていた。
(p80)

初登場シーンでここまでねちっこく容姿を描写される愛されっぷり。食い物をむさぼってばかりの無能ネコにみせかけて、ここぞという場面では重要な働きをみせてくれます。
アーシュラが「これは、はじめから終わりまで、まぎれもなくダイアナ・ウィン・ジョーンズの本です」と断言しているので、ファンは素直にそれを信じてよさそうです。(とはいえ、DWJガチ勢がバトンタッチのタイミングを検証してくれるならそれはそれで気になるので、識者の動向が注目されます。)