『ふしぎ古書店1 福の神はじめました』(にかいどう青)

ふしぎ古書店1 福の神はじめました (講談社青い鳥文庫)

ふしぎ古書店1 福の神はじめました (講談社青い鳥文庫)

新しい学校に転校してきたばかりの小学5年生文学少女東堂ひびきは、普通の人には見えない古書店を営んでいて自分は福の神だと名乗っている風変わりなイケメン青年レイジさんと出会います。レイジさんは惰眠をむさぼること(1日に26時間寝ることが目標)とカレーをそえた福神づけを食べることが趣味で、睡眠導入用に読むのと枕にするために本を集めているというダメ神さま。あろうことかひびきを無理矢理弟子(仮)にして、福の神の仕事を押し付け、3人の人間をしあわせにするよう強要します。学校で完全に孤立していて、前の学校でもなにかあった感じの空気をあからさまに出しているひびきには、大きな試練となりました。
救いを得るためには、まず自分が救いを求めていることを認めなければなりません。それが実は一番難しいことだったりします。日常のお悩み解決ものとしての重さは中の上程度。でも、身に覚えのある人にはかなり突き刺さる内容になっています。
ひびきが最初に手助けをすることになったのは、クラスのキラキラ女子秋山絵理乃。ひびきはストーカーに追われているという絵理乃をとりあえず古書店にかくまいます。そこで絵理乃は、イマジナリーコンパニオンテーマの傑作『ポビーとディンガン』を見つけて本を開かずにその一節を暗唱してしまい、彼女がキラキラ女子に擬態した読書オタクであったことがバレてしまいます。
本性がバレた絵理乃は執拗にひびきにつきまとってきます。絵理乃がオタクともだちにいかに飢えていたということがよくわかり、ほほえましいです。絵理乃はひびきを呼ぶときフルネームで「東堂ひびき」と呼びます。親しくしたいから本当は下の名前で呼びたいのに、まだ距離を測りかねて妥協案としてフルネームで呼ぶ奥ゆかしさも、またよいです。
一言でいえばこの作品は、「ともだちがほしい」というだけのことを語っている話です。それだけのことを本1冊かけて丁寧に描くのは、とても尊いことだと思います。
そしてすばらしいのは、そんな作品の小道具として『ポビーとディンガン』を選ぶセンスです。イマジナリーコンパニオンを持つ病身の子どもをめぐって人々の善意が結集する感動作である『ポビーとディンガン』は、この作品のテーマにも大きく関わってきます。それに、自分が生まれるより前に出たそれほど有名でない本を読んでいるふたりが同じクラスになるというのは、奇蹟にほかなりません。この出会いが運命であったということが、強烈に印象づけられます。
巻末におまけとしてついている読書案内のコーナーもすばらしいです。『ポビーとディンガン』を詳しく紹介しているのはもちろん、そこから辻村深月の『子どもたちは夜と遊ぶ』を紹介する流れのあざやかさ。著作権についての知識とか、ミステリの結末をばらすのは死罪に値するとか、あらためて教えてもらう機会をなかなか得にくい本読みの常識を自然な流れで啓発してくれるもの嬉しいです。
青い鳥文庫に楽しみなシリーズが、またひとつ増えました。
ポビーとディンガン

ポビーとディンガン