巨大なじゅうたんのようななにかでできた島の上にあるせなか町を舞台とした寓話集。「
はこねこちゃん」という話は、
シュレディンガーと言ってしまうと負けな気がします。正解を言い当てた(言い当てられるような心性を持っていた)ことにより子どもが罰を受けるという暗い仕掛けがおもしろいです。
この世界の成り立ちを説明することは、子どものための文学の大きな役割のひとつです。人間と山犬や狐・山の神さまや水の神さま、はるか昔に生きていた恐竜までが混在している混沌とした世界を描き出したこの作品は、まさにその役割を果たしているといえましょう。世界の不思議さへの恐れ・畏れが、圧倒的な密度で読者に迫ってきます。
日本の土着の想像力を元に世界の不思議さを描き出したのが『水はみどろの宮』だとするなら、こちらはイタリアの想像力でこの世界の成り立ちの神秘を描き出した作品となります。古い森を舞台に人間たちや鳥や動物・風の化身・妖精がそれぞれの思惑で対立したり利用し合ったりする、わけのわからないファンタ
ジーです。美しくも不気味な光景を背景に、どす黒い悪意が渦巻いています。
この作品、東宣出版の「はじめて出逢う世界のおはなし」でも刊行されることになっています。東宣出版は日本ではまだあまり知られていないような非
英語圏のおもしろい作品を紹介してくれる出版社で、外文ファンには大きな期待をかけられています。誰が悪いわけでもないんでしょうが、そんな出版社がなんの因果でこんな事故に遭ってしまったのでしょうか。よりによって
岩波書店が同時期に同じ作品を翻訳して、わずかの差で岩波が本邦初訳ということになってしまいました。
公共図書館や
学校図書館におかれましては、ぜひ
岩波少年文庫版だけでなく東宣出版版の購入も検討していただければと思います。