『少年Nの長い長い旅 01』『少年Nのいない世界 01』(石川宏千花)

少年Nの長い長い旅 01 (YA! ENTERTAINMENT)

少年Nの長い長い旅 01 (YA! ENTERTAINMENT)

講談社が、YA向けレーベルYA! ENTERTAINMENTとライト文芸レーベル講談社タイガで同一の世界の物語を同時展開するという、興味深い試みを行っています。タイガはすでに青い鳥文庫の「ふしぎ古書店」シリーズとのコラボもおこなっていますが、児童書とライト文芸を接続するという試みが今後も続くのか、注目されます。
YA! ENTERTAINMENTの『少年Nの長い長い旅 01』は、猫を13匹殺してその首をビルの屋上から投げ落とし自分も飛び降りると異世界に行けるという「猫殺し13きっぷ」の都市伝説を実行しているらしい人物を追っていた小学6年生のグループが、自分たちも巻き込まれて異世界に飛ばされてしまうというストーリーです。
異世界では子どもたちはバラバラに分断され、言葉も通じずわけのわからないまま、やたら高い塔に登らされたり岩を抱えて湖に潜らされたりといった、過酷な謎の儀式を強要されます。唯一意思の疎通ができる人物は、明らかにこの世界ではオーバーテクノロジーにみえる腕時計型の翻訳機を持ったサットという男だけでしたが、この男も敵なのか味方なのか判然としません。
主人公の五島野依は衝動を抑えられない性格で時々暴力を行使してしまう少年です。以前は彼の衝動は正義感の発露であると周囲から好意的に受け止められていましたが、高学年になると大人からはただの問題児扱いされるようになります。そういった性格の彼は、過酷な異世界でのサバイバルには適応してしまいます。それがよいことなのか悪いことなのか、「少年N」という表記の不吉さも含めて、まだ先の展開は予想しがたいです。講談社タイガの『少年Nのいない世界 01』のプロローグは、女工哀史のような世界になっています。本編は『少年Nの長い長い旅 01』から約5年後の物語で、小学生グループのひとりで今ではイベント会社の社員になったという魚住二葉が、かつての仲間を捜していきます。
ここで異世界の設定が次々と開示され、文明レベルの差の謎も明らかになるなど、様々な驚きがありました。しかし、ラストの女工哀史世界に飛ばされた人の行動の驚愕がすべてかっさらっていってしまいました。