『ホイッパーウィル川の伝説』(キャシー・アッペルト&アリスン・マギー)

ホイッパーウィル川の伝説

ホイッパーウィル川の伝説

主人公のジュールズは石マニアの11歳の女の子。ジュールズには、自分とは正反対の姉がいました。有望な陸上の選手で活発な性格の姉シルヴィは、ジュールズの前から姿を消してしまいます。
自分とは違いすぎる姉に対する、嫌いと好きが表裏一体になった感情の描き方が繊細です。亡母の記憶をジュールズはほとんど持っていないのにシルヴィはいろいろ知っていることなど、ジュールズは姉に対して様々な屈託を抱えています。それでありながら、やはり本心では姉のことが大好きで、ふたりで雪だるまをつくって遊ぶ場面などはとても楽しそうです。
しかし姉は、「奈落の淵」と呼ばれる川が地面の下に流れ込む危険な場所に近づいて行方不明になってしまいます。母はずっと前に亡くなっていて姉もいなくなり、アフガンで友を喪った帰還兵の若者もからんできて、作品世界は喪失感に支配されます。
なんといっても目を引くのは、「奈落の淵」という地形の不気味さです。暗い地下の流れにはまりこんでしまったらどうなるのだろうと、想像力をかきたてられずにはにはいられません。森・川・洞窟からなり、様々な動物たちが登場する舞台は、根源的な恐れや畏れの感覚を呼び覚まします。
この作品では、自然と動物の世界と人間の世界、死者の世界と生者の世界が渾然一体となっています。そんな原初的な信仰の世界で繰り広げられる喪失の物語は、美しくも悲しく神秘的で、読者の心を打ちます。