『日よう日が十回』『今夜はパーティー』(新冬二)

『日よう日が十回』

1972年太平出版社刊。エムエムと名乗るチンドン屋の青年に誘われ、毎週日曜日に彼の仕事の手伝いをすることになった少年太郎の物語。
あとがきで著者は「東京というものを作品にしてみたかった」と述べています。そのとおり、この作品の主役は東京という都市になっています。
ギンザの路上でひこーきのおもちゃを売ったり、ヒビヤ公園で鳩の豆を売ったり。はたまた郊外のダンチでスカーフを売ったり、友達がカスカベという(彼らからしたら)辺境の地に引っ越すことになったりするエピソードもあり、東京から離れた視点から見た東京の姿も浮かび上がってきます。
エムエムは多くを語らない性格なので、タロウ視点では都市とともに大人の世界をほのかに垣間見たような印象になります。どうやらエムエムは結婚したらしく、それをきっかけにひげを伸ばすことにしたらしいのですが、詳しい説明はありません。ただタロウは、毎週会うたびにひげが伸びていくことを確認するだけ。この距離感が絶妙です。
物語も説明が乏しく、ときおりどこまで現実でどこまで幻想なのかがわかりにくくなります。たとえば、ダンチでタロウはちょうちょに声をかけられますが、それがいつの間にか女の子になったりします。初めからちょうちょのような女の子という隠喩だったのだと解釈するには不自然で、狐につままれたような感じになります。佐々木マキのイラストも相まって、そういったシュールな面も印象に残ります。

今夜はパーティー (創作こどもの文学)

今夜はパーティー (創作こどもの文学)

1987年小峰書店刊。これも都市巡りの話。しかし、出発点は『日よう日が十回』より狂っています。営業職で忙しい父親が珍しい休日に、今夜パーティーをするので家族それぞれが異性の招待客をひとり連れてくるという、奇妙なゲームを提案をします。しかもその客は、家族の誰も知らない全くの他人でなくてはならないというのです。小学生の子どもも含めた家族で行うゲームとしては、あまりにも突飛です。
小学4年生のキヨシもこの提案に乗り、1日かけて都市巡りをします。池袋を出発点として、谷中、浅草、新橋、銀座、原宿。水上バスで様々な橋を眺めたり、黒川紀章中銀カプセルタワービルのような奇怪な建築物を眺めたりしながら、忙しく動き回ります。その中で、年をとってから煙草を吸い始めた祖母の人生に思いをはせたり、これから複雑な関係の恋人と会うらしい浪人生の少女と会話したり、知り合いのおじさんが浮気相手を密会しているらしい現場を見てしまったりと、他人の人生の断片を垣間見てしまいます。
都市の断片と人生の断片から人間の活動の奥深さを想起させる、味わい深い作品になっています。