- 作者: 藤野恵美,朝日川日和
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- 発売日: 2017/08/10
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- 作者: 藤野恵美,HACCAN
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実は阿倍野いよはプリンセス・ひみこの娘でした。自分の母親がインチキ占いで同級生から数万単位の金をふんだくっているとなれば、いたたまれなくなるのも無理はありません。阿倍野いよは帰りの会で、占いの非合理性を明快に説きます。しかし、クラスの空気は楽しければ非科学的でもいいという方向に流れていき、占いが容認されます。正しさで殴るだけでは正義を実現することはできないという難しさを、藤野恵美は早い段階で問題提起します。
しかしその後、クラス内でAB型差別が跋扈するという事態に発展します。日本ではAB型は少数派なので、多数決をとればAB型に不利なシステムが「民主的」にどんどん構築されていくという、笑うに笑えないコメディが展開されていきます。楽しければいいというだけでは片付けられない迷信やオカルトの弊害を、皮肉なブラックユーモアで説いているのです。
この事態に冷静に反対意見を述べたのは、小谷秀治という、おそらくASDの男子でした。ASDの子どもを差別の対抗者として設定することによって、藤野恵美は差別や迷信を好むことは定型発達者(「ふつう」とされる人々)の特性であるというところににまで踏み込んでしまったのです。
さまざまな重要な問題提起がなされている作品ですが、それを読みやすいエンターテインメントとして仕上げる技量が、藤野恵美のおそろしいところです。
最後に、新装版の修正ポイントについて簡単に触れておきましょう。大きな変更点は、阿倍野いよの父親の死因です。旧版では、地震で全壊した家の下敷きになって死んだことになっていました。その家は風水師のアドバイスでいい方角に建てたはずなのに父親が亡くなるという結果になったことが、阿倍野いよが占いに反感を持つきっかけとなりました。被災後、生活費を稼ぐために母親は占い稼業を始めます。
新装版での父親の死因は交通事故です。ただし、母親が占いを始めた動機はいよが生まれる前に起きた神戸の震災で、それをきっかけに「運命とか、星のめぐりあわせとか」に興味を持つようになったということになっています。新装版では父親の死と母親が占い師になったきっかけが切り離されることになりました。
比べてみると、旧版のプリンセス・ひみこは占いがインチキであることを重々知ったうえで占い師になったのだということになります。彼女にとって占い師になることは、占いや運命や世界への復讐であったと解釈することもできそうです。それではあまりにも邪悪すぎるため、新装版では薄めたのでしょうか*1。
そういった観点で振り返ると、プリンセス・ひみこがさくらに売りつけたオカルトグッズの値段が1万2千円から7千円に値下げされたという細かい修正も、彼女の悪辣さをやわらげようという意図のようにみえてきます。
*1:もちろん、旧版と新装版では10年ほど時間に開きがあるため、いまの小学生が神戸の震災の被災者であるという設定に無理が生じたというのが、改稿の第一の理由なのだろう。