『ふしぎ古書店6 小さな恋のひびき』(にかいどう青)

ふしぎ古書店6 小さな恋のひびき (講談社青い鳥文庫)

ふしぎ古書店6 小さな恋のひびき (講談社青い鳥文庫)

「ふしぎ古書店」シリーズ第6弾。4,5巻は読者のメンタルを削らないエピソードでしたが、やはり油断させたところで重い話をぶっこんできました。
6巻1話「わすれられない男の子」は、ひびきがクラスの男子スズキ君に告白される話です。しかしひびきはスズキ君に見覚えがなく、いつの間にかクラスにまぎれこんでひびき以外の人間にはクラスの一員だと認識されているアヤカシである疑いが濃くなってきます。スズキ君の正体、目的は何かというお話。

百四十年前って、何年前だっけ?……あ、百四十年前か、ふむ。
(p163)

6巻2話「疫病神のゆううつ」では、1話の時点からずっと眠りこけていたレイジさんがいつもの怠け病ではなく、深刻な事態に陥っていたことがわかります。レイジさんを助ける過程でひびきは、かつて疫病神であった彼の壮絶な過去を知ることになります。
6巻1話も2話も、シリーズ初期のテーマの変奏です。すなわち、人が救われることはいかに難しいのかという問題です。人が救われるためには、まず外部の環境を改善することが必須です。しかしそれがなされたとしても、自分が「救われたい」と願い、自分で自分を「許す」ことができなければ、心の安寧は得られません。最後に立ちふさがるのは、自分の内面なのです。
1話のひびきはスズキ君が救われるための触媒の役割を果たし、2話ではレイジさんのトラウマをえぐり出す触媒となります。ある程度他人が手助けをすることはできますが、それでも最終的には本人がどうにかするしかありません。その難しさに取り組んでいることが、このシリーズの児童文学としての成果です。
スズキ君はひびきに接触するために、恋という「物語」を利用します。であるからこそ、「物語」によって結びつけたれたふたりの関係を恋と名付けることは決してできません。ひびきはふたりの関係を「おなじ秘密を共有した」「共犯者」であると仮に定義します。そして、スズキ君の物語を死守することを誓います。物語論としてもこの作品はひねくれた構造を持っています。それは、「物語」による救いというテーマにも関わってきます。
自分の人生を生きることはなんと困難なことか。最後に、作中でも触れられている『モモ』の一節を引用します。

時間とは、生きるということ、そのものなのです。そして人のいのちは心を住みかとしているのです。
(ミヒャエル・エンデ『モモ』(大島かおり訳 岩波少年文庫 2005))