『現代子ども文化考』(山中恒)

現代子ども文化考: 「子ども」に寄り添って

現代子ども文化考: 「子ども」に寄り添って

山中恒による三部構成の評論集です。
第一部には「出版ニュース」に2012年から2015年にかけて連載されていた短い評論がまとめられています。絵本や児童文学の話題だけでなく、少年犯罪などの時事ネタを扱ったものもありますが、山中恒は必ず昔だってひどかったという方向に話を持っていくので信用できます。過去の美化を引っぺがす芸風の文筆家もいまでは何人か出てきています。しかしやはり、斯界の重鎮である山中恒は資料収集力・資料整理力がずば抜けていて、銃後体験に根ざした説得力もあり、格の違いをみせつけてくれます。
第二部「健全の基準とは」は、日中戦争時に出された「児童読物改善ニ関スル指示要項」をもとに、2010年に問題となった表現規制を目的とした都条例に警鐘を鳴らす評論となっています。表現の自由を守るための戦いに終わりはありません。今年も大きな表現弾圧事件が何件も起きています。自由を守るためには歴史から学ばねばなりません。広く読まれるべき評論です。
第三部には、読書感想文コンクールの闇を暴き立てた1973年の評論「課題図書の存立構造」が収録されています。この伝説的な評論を気軽に手に取れるようになったのはありがたいです。「考える読書」の美名の元に、子どもの読書を型にはめて自由を奪っている読書感想文コンクールの欺瞞は、非常に罪深いです。
感想文に関連して、戦後児童文学黎明期の様子や児童文学者協会の成り立ち・読書運動の功罪などにも話題が広がっていて、戦後児童文学の見取り図を得るための貴重な資料となっています。未読の方はこの機会にぜひ読んでもらいたいと思います。