『あらしの白ばと 黒頭巾の巻』(西條八十)

しょうがないわ。それだけ世の中には悪人が多いんですもの。こうなるからには、"白ばとグループ"の黒ずきんは、当分、思うさま日本じゅうをあばれまわるよりほかはないわ。

http://d.hatena.ne.jp/seirindou_syobou/20171219/1513656148
芦辺拓の編集による、西條八十の伝説的怪作少女小説の「あらしの白ばと」刊行事業も、もう3年目になりました。「あらしの白ばと」を読まないことには正月を迎えられない体質になってしまった人も、多数いるのではないでしょうか。
「少女をいじめる悪人は、少女の声で、ほろぼすということをモットーにしている」はずだった白ばと組ですが、"おとめべんけい"の吉田武子さんを中心に少女たちの正義の暴走はとどまることを知らず、黒頭巾をかぶって悪徳企業や悪徳代議士に天誅を下す闇のヒーロー軍団になっていました。宿敵椎名魔樹がまたも現れ、白ばと組は6個のダイヤモンドがからんだ怪事件に立ち向かうことになります。
白ばと組の日高ゆかりさんも辻晴子さんも、もはや武子さんの暴走には諦めムードです。武子さんは前回の事件で知り合った茉莉子さんと新居を構え新婚同然の生活*1になっているので、茉莉子さんに止めてもらおうとはしますが、うまくいきません。茉莉子さんは茉莉子さんで、「しかたがありませんわ。この人は何かすると決めたら、もうかえることのできない人なんです」と、もう長年連れ添った妻のような悟りきった発言をします。
武子さんの理不尽な強さは、もうおなじみのとおり。相手がゴリラだろうがなんだろうが、一対一の決闘では無敵です。武子さんに殴りこみをかけられた悪党側の絶望感はたいへんなものです。悪党側のモブは武子さんのことを"おに娘"と呼んでおびえるばかり。気持ちはよくわかります。
しかし、何も考えずいきあたりばったりにストーリーを転がしているかにみえる西條八十も、バトルのバランス調整には気をつかっているようです。命知らずの武子さんにも、自分の命より大事な妻ができてしまったので、これを利用しない手はありません。茉莉子さんの存在が武子さんにとって最大の障害になります。
こうなると武子さんの方がだいぶ不利になってしまうようですが、西條八十は敵にも枷をはめています。椎名魔樹の方は、証拠を残さず殺すことにこだわっているので、一見して他殺とわかる銃殺などの方法は控えています。このことによりわずかな隙が生まれ、爽快な逆転劇への布石となります。
「あらしの白ばと」シリーズは、まだ第4部と第5部を残しています。あとがきの書きぶりでは続きを出すことは確実なようなので、楽しみに待ちたいと思います。

*1:作中の表現だと、「ここは、麻布のある静かな横町にある、小さいけれど、きれいでモダンな洋館。吉田武子と東茉莉子との、楽しい友情の愛の巣です。」となっている。このころの少女小説では同性婚が当たり前だったのだろうか。