『原民喜童話集』(原民喜)

原民喜童話集

原民喜童話集

原民喜の童話集。原民喜といえば、一般に原爆というイメージが持たれています。しかしこの本の著者紹介欄には「原爆体験を元に著した『夏の花』が代表作と言われているものの、詩作/創作小説・童話/エッセイなどに作家としてのきわめて純度の高い真骨頂が現れる。」と記されています。世間的なイメージを刷新したいとの強い意志が感じられます。
「誕生日」は、誕生日にちょうど遠足が重なった少年の話。しばらくよい天気が続いているというだけのことで世界中から祝福されているような気分になります。楓の赤、空の青、白菊の花といった色彩のイメージがあざやかで、素朴な幸福感に満ちた佳作になっています。
「もぐらとコスモス」は月夜に地上を見物したもぐらの話。これも、さまざまな色のコスモスや月夜に遊ぶ白いうさぎといった色彩が印象に残ります。
注目したいのは、1950年に北海道新聞で発表された「二つの顔」というSF色の強い作品です。宿題や試験が嫌な少年が兄と頭を取り替えてそれを乗り切る夢を見るという内容です。おでこをぶつけると入れ替わりが解除されるというお約束も、すでに実装されています。これは入れ替わりSFのプロトタイプとして重要な作品なのではないでしょうか。