『ぼくの同志はカグヤ姫』(芝田勝茂)

ぼくの同志はカグヤ姫 (ポプラ物語館)

ぼくの同志はカグヤ姫 (ポプラ物語館)

2016年10月に毎日新聞大阪本社版で連載された『同志カグヤ』を加筆修正して単行本にしたものです。
突然宇宙人から戦争をやめろ、環境を破壊するななどという命令がなされて、世界中が大混乱。学校では空から携帯ゲーム機が降ってきて、そこからかぐや姫が出てきて……と、あらすじを紹介してもわけがわからないので、説明は放棄します。宇宙人が出してくる情報はどんどんひっくり返されるので、読者は混乱するばかり。「なにがヨモツヘグイだ」とか、語り手とともにつっこみを入れても全然追いつきません。芝田作品のなかでもトンデモ度は高く、どこに連れていかれるか予想がつかないので、連載に向いていました。連載されていた当時は毎回楽しみで楽しみで。
芝田勝茂といえば、主軸はファンタジーとSFです。しかし、『サラシナ』や『虫めずる姫の冒険』など、古典に題材をとった作品に佳作があることも忘れてはなりません。『竹取物語』を下敷きにしたこの作品も、その路線にあります。作品だけでなく、古事記の講座を開いたり、縄文サマーキャンプを企画したりと、その視点ははるか古代に向けられています。過去を見渡す視点の射程の広さは、児童文学界随一でしょう。それにしても『ぼくの同志はカグヤ姫』の時間のスケールの大きさといったら、驚きあきれるばかりです。
また、芝田勝茂は激しい恋愛を書く作家であるという側面も、無視することはできません。『ぼくの同志はカグヤ姫』で描かれる関係は恋愛よりもむしろ〈同志〉という関係性ですが、その熱度は恋愛を主要なテーマにした作品群を超えています。
極端な面が多い芝田作品のなかでも群を抜いて極端な『ぼくの同志はカグヤ姫』、芝田勝茂を語るうえで欠かせない作品になりそうです。