『奇譚ルーム』(はやみねかおる)

奇譚ルーム

奇譚ルーム

動物のぬいぐるみのアバターを使用したVRチャットのような形式のSNSに、不思議な話を好む者たちが10人集められ、とっておきの奇譚を披露することになります。ところが、マーダーと名乗る謎の11人目の参加者が出現し、自分を満足させる話を語れない者は殺害すると宣言します。さらに、もし自分の正体を推理することができたなら命を助けてやると条件をつけます。はじめは半信半疑だった参加者たちも、実際に不可解な状況で参加者が殺害されたり、現実の自分の手の甲に×印がつけられたりしておびえきります。
以下、真相の核心部分にはできるだけ触れないように気をつけますが、かする表現はあるので、未読の方は読まない方がいいです。





あとがきによると、乱歩生誕120周年没後50年記念に乱歩風の物語を書いてほしいとの編集者の注文にこたえてこしらえたのが、この作品だとのことです。オチを読んだ直後にこのあとがきを読むと、どちらかというと夢野久作風ではないかという気もしますが、よく考えると納得できます。
乱歩のレンズ趣味・覗き見趣味を考えれば、現代に乱歩が生きていればVRに興味を持つであろうことは想像に難くありません。
参加者たちが語る奇譚も、分身をテーマにしたものや同一性への不安をテーマにしたものが多く、これも数多の乱歩作品を思わせます。
ストーリーやガジェットの表層をなぞるのではなく、乱歩の趣味の中核を取り出して現代風に再現してみせたという意味で、優れたオマージュ作品であるといえるでしょう。乱歩世界とはやみねかおるの赤い夢の融合には大きな意義があります。
それにしても、もっとも笑わせてもらったのは、××の正体です。はやみねかおるは思いがけないネタを繰り出してくるので、油断ができません。