『マネキンさんがきた』(村中李衣)

マネキンさんがきた

マネキンさんがきた

小学4年生の男子サトシとトオルは、川に流されていたマネキンの頭部を発見します。これを使って担任の先生を驚かすいたずらをたくらみますが、「たたられないように気をつけてね」と言われて怖くなり捨てるに捨てられなくなってしまい、教室でこの首を飼うことにします。
マネキンの頭部というあきらかに不気味なものが学校に持ち込まれる、異様な展開が目を引きます。子どもたちはマネキンに着るものや机や椅子を与え、「マネキンさん」という名前まで与えて、あたかもこの首がクラスの一員であるかのようにふるまいます。あとがきではこの様子を「「異なり」と向き合っていく」と表現しています。ということで、この作品は異質なものとの共生の物語と捉えることができます。
しかし、善意のみで物語は進んでいきません。子どもはかしこいですから、どんなことでもいじめのネタにすることができます。クラスには岡みほこという、いつも服が汚れていて学校ではほとんど話をしない女子がいました。クラス内はみほこはマネキンさんのようだという陰口であふれ、こっそりマネキンさんのことを「みほこ」と呼ぶ男子も出てきます。
このことで先生から怒られたサトシは、「先生は弱いもんの味方ばっかしてずるい」とのたまいます。このようなみもふたもないセリフを描いてしまえるのは、さすが村中李衣です。
クラスでは、おばけをテーマにしたダンスの発表会が行われることになります。クラスの悪意によって、みほこはマネキンさんと一緒に踊る役を押し付けられます。そこから、幻想的な光景により不気味なものが美しく楽しいものに反転していきます。
登場する大人たちは子どもをまっとうに導こうとする姿勢を持っているので、この作品は理想主義的な児童文学として成立しています。それでいながら、なんとも言い難い毒も混入されている得難い作品になっています。
毒といえば、武田美穂のイラストにも触れておく必要があります。一見かわいらしい絵柄の中に強烈な毒を仕込む武田美穂は、この作品にぴったりでした。
村中李衣にとっても武田美穂にとっても新たな代表作となりうる傑作です。ぜひロングセラーになってもらいたいです。