『マレスケの虹』(森川成美)

マレスケの虹 (Sunnyside Books)

マレスケの虹 (Sunnyside Books)

ハワイの日系二世マレスケの物語。時は1941年で、開戦を控えています
マレスケの名前は乃木希典にちなんでつけられたものですが、「雇い主」が死んだというだけで腹切りをする心情はまったく理解できません。白人の西部劇や恋愛映画は嫌いで、祖父の好むような日本の映画も好きではなく、でもやがて公開される『ダンボ』にはちょっと興味を持っています。日系人がいて、ハワイの人々がいて、ハオレ(白人)もいる、当時の日本人と比べるとはるかに多様性のある環境で育ったマレスケは、そんな感性を持っています。
祖父と父はハワイに移住し、母は写真花嫁としてやってきて、ハワイで生まれたマケスケは親が持たないアメリカの国籍を持っています。現代を生きる読者からみると過酷な環境にみえますが、それでもそこには生活があって子どもはいろいろなことを考えながら育っていくのだということが生き生きと描かれています。
『ダンボ』を鑑賞するところなど、単文を連ねて勢いよく語り手マレスケの感情を追う場面が目立ちます。その手法により、マレスケの声がすんなりと入ってきます。枠を否定し変化を称揚するメッセージも、マレスケの声とともに読者に受け入れられそうです。
この『マレスケの虹』や小手鞠るいの『ある晴れた夏の朝』*1と、今年は日系アメリカ人を主要な題材とした戦争児童文学が登場しました。戦時中日本からもアメリカからも不当な扱いを受けていた日系アメリカ人を取り上げることで戦争児童文学にどのような地平が開けるのか、戦争児童文学史のなかでどのように位置づけることができるのか。このあたりは、識者に活発に議論してもらいたいところです。

*1:小手鞠るいは2017年に一般向けに刊行された『星ちりばめたる旗』でも、同様の題材を扱っている。