『エミリーとはてしない国』(ケイト・ソーンダズ)

エミリーには、長い闘病生活を送っているホリーという姉がいました。エミリーはホリーとクマのぬいぐるみのブルーイが一緒にスモカルーンという魔法の国で冒険をする話を考えて、いつもホリーにきかせていました。ところがホリーが亡くなり、同時にブルーイも話をしなくなりました。そんなある日、エミリーはホリーの部屋で、みたことのないペンギンとクマのぬいぐるみが動いているのを発見します。この2体もスモカルーンの住人で、そこにはいまもブルーイがいることを知らされます。
喪の物語ということになるので、作中は悲しみが基調になっています。ただし、子ども向けの物語がそれだけではあまりにもつらすぎるので、蜜もたっぷり塗られています。
ペンギンとクマのぬいぐるみが仲良くしているアンティークショップの店主の亡くなった息子のものであったことがわかったり、そもそもスモカルーンはC・S・ルイスがモデルになっているジョン・ステイプルズという作家が想像したものであることがわかったりと、魔法の世界の謎が徐々に明らかになっていく展開が興味を引きます。
そして、ぬいぐるみワールドで巻き起こる騒ぎの楽しそうなこと楽しそうなこと。ペンギンの集団がダンスパーティーをしたり、パイ工場に見学に行ったぬいぐるみたちがパイ投げ合戦を始めたり。北見葉胡のイラストが無表情なぬいぐるみたちを表情豊かに描いていて、楽しさを増幅させています。
ただし、魔法の国は生者にとっては彼岸なので、越えられない線は引かれます。