『31センチの約束』(嘉悦洋)

小学4年生のサラとゆいは大親友で、一緒にバレーボールのクラブチームでがんばっていました。しかし、ゆいは白血病にかかって長期の入院を余儀なくされ、治療薬の副作用で髪の毛も失ってしまいます。偶然ヘアドネーションのことを知っていたサラは、ゆいのウイッグをつくるために31センチ以上髪を伸ばすことを決意します。しかし、所属しているクラブチームのトップチームにはロングヘア不可という因習があり、トップチームに昇格したサラは迫害を受けることになります。
そもそもライオンズクラブの企画でヘアドネーションの啓発目的に作られた本なので、文学としては邪道かもしれません。しかし、目的がはっきりしているために最小限のエピソードがコンパクトにまとめられていて、結果的に女子ふたりの物語としての破壊力が高くなっています。
直接会うことが難しくなったふたりは、交換日記という古風な手段でコミュニケーションをとります。これが物語をサクサク進行させるための小道具としても、感情の行き違いや増幅を演出する小道具としても、うまく機能しています。そして、現実的にそうなるであろうという結果がサラの感情を爆発させるところで、百合児童文学として最高の盛り上がりをみせてくれます。
ということで、思わぬところから出てきた良作だったのですが、一点だけ注文をつけたいことがあります。バレーチームのコーチはチーム内の因習を知りながら放置し、それならばチームを抜けたいというサラを無理に引き留めるというパワハラをします。コーチの真意は自分たちで問題を解決してほしいというもので、結果としてはうまいところに収まりますが、それはフィクションだからです。作中で起きたことは、無能なコーチがわざと子どもを過酷な環境において何の手当もせず放置していたというだけのことです。スポーツ指導者の横暴は美談化されがちですが、子ども向けの物語ではそろそろやめてもらいたいです。