青瞬する絶体絶望のアキレス
陸上部員の足駕ハヤトは、メイド服姿の疫病神に呪われてしまいます。その呪いの内容はアキレスとカメのパラドックスを応用したもので、鈍足の疫病神が先に走っている限りハヤトの足もどんどん遅くなってしまうというものでした。理屈の強さはにかいどう青の数え切れない長所のひとつですが、屁理屈をさらに強い屁理屈でぶっとばす豪腕が光っています。しかし、疫病神という存在は、古参のにかいどうファンほど「文脈……」ってなります。
Yにまつわる悲喜劇
ミステリ教養の深さはにかいどう青の数え切れない長所のひとつですが、これはいい意味で壁投げしたくなるバカミスでした。横田順彌の「Y'の悲劇」といい、日本人は「Yの悲劇」をおちょくってばかりでエラリー・クイーン先生に申し訳ない感じがします。
カースト崩壊テロップ機能
大好きで大嫌いなこの気持ちを、なんと呼べばいいんだろう。
百合の強さが(以下略)。この冒頭の1文だけで、ある層のにかいどう読者を絶対に殺すという強固な意志が伝わってきます。マイコとリリルは幼いころから一緒にダンスに打ちこんできたかけがえのない仲間でした。しかしマイコはリリルとの間にある才能の差に絶望し、リリルに対する複雑な巨大感情をこじらせていきます。にかいどう青らしい闇百合短編の佳作。にかいどう青は、どれだけ闇百合作品をこしらえて多くの読者のメンタルを殺したら気がすむというのでしょうか。
痛い以内会いたいゴースト
にかいどう青の殺意はとどまることを知りません。「カースト崩壊テロップ機能」で殺しきれなかった読者は確実に次のこれで息の根を止めようという最悪の布陣を敷いてきます。なにしろこの作品では、前作の闇百合「ビー玉メモリーズ」に登場した魔術研究会の黒井マホコが絡んでくるのですから、始末に負えません。しかもタイトルが、『恐怖のむかし遊び キレイになりたい』の「いナいなイタいたい。」「痛いナ居たイない。」系統の壊れた文字列で恐怖を煽るもの。しかし物語は、家に異様な気配を感じるという不気味な発端からあんな感じに落ち着きます。そして、「痛い以内会いたいゴースト」と「ビー玉メモリーズ」のラスト1文のあまりの落差に、読者は震えることになるのです。