『ちいさな宇宙の扉のまえで  続・糸子の体重計』(いとうみく)

異様に人間の器のでかい小学5年生細川糸子を中心としたクラスの人間模様を連作短編の形式で描いた『糸子の体重計』で、いとうみくは2012年にデビューしました。それから10年経ち児童文学界で確固たる地位を築いたいとうみくが、6年生に進級した糸子たちの物語をふたたび提供してくれました。
このシリーズの感想は、「め、めんどくせー」の一言で済んでしまいます。生きている限り避けることのできない人間関係のめんどくささに正面から向きあい、キャラ立てのうまさと構成のうまさでそのめんどくさいことこのうえないテーマを娯楽読み物として仕上げているのが、この作品のすごいところです。
第1話は、盲腸で入院して学校に復帰したばかりの糸子が主人公。糸子の不在時に転校してきた日野恵になぜか気に入られて、ストーカーすれすれのつきまとい行為を受けてしまいます。この攻撃にはさすがの糸子もたじろいでしまいます。
第2話では主人公が恵に交代。迷惑行為の背景が語られます。恵の母親はいつも娘の前で幼なじみの「腹心の友」とイチャイチャしていて、そのせいで恵は「腹心の友」をつくらなければならないという強迫的な思いこみを呪いのように植えつけられていたのです。めんどくさいめんどくさい。しかし、このシリアス一辺倒に語ってもよさようなエピソードに、わら人形というおもしろアイテムを配置してギャグテイストを入れるいとうみくの手綱さばきのうまさには瞠目させられます。
そんなめんどくささを大人になってもこじらせていたらどうなるかという末路は、クール女子町田良子の母親が語ってくれます。好きな女の赤ちゃんを……という。そして物語は、小学6年生にとって最悪のめんどくさいイベント、修学旅行の班決めという地獄に向かっていきます。
小学校高学年の年齢相応のめんどくささを掘り下げつつ、後半には家庭の事情で他の子よりも大人びてしまった町田良子と滝島径介のめんどくささにスポットを当てていく構成も巧みです。

「べつに深い意味はないけど、わたちたちみたいにめんどうな人間は、そのくらいのほうがいいんだと思う」

著者としては糸子の物語はこれで完結というつもりのようですが、それはもったいないのでこれはライフワークにして、10年おきに糸子たちを1年進級させるのがよいと思います。