『最高のともだち』(草野たき)

リクと菜摘とライト、小学六年生のなかよし三人組の物語です。久しぶりに草野たきがダーク路線に振り切った作品をみせてくれました。

六年生だった僕は、将来、愛子さんと本気で結婚したいと思っていた。
世界中を敵にまわしてもかまわない。
なにもかも失ってもかまわない。
愛子さんを自分のものにしたい、自分だけのものにしたい、そう、本気で考えていた。
高校生になった今でも、僕のあのときの気持ちを笑うことはできない。

作品世界は、おそろしく不穏な空気に支配されています。リクは父親から教育虐待を受けていました。そんなリクの心の支えは、おじのせいちゃんの彼女である愛子さんの存在でした。子どもが年上の人に憧れること自体はよくあることではありますが、リクの場合は重さがただごとではありません。上に引用した作品の冒頭部分の迫力だけで、これは襟を正して読まなければならないなと思わされます。
せいちゃんが家庭教師をしているライトの家でたこ焼きパーティーをすることになり、リクはライトには興味はないものの愛子さんも行くというので参加しました。そのとき、リクの愛子さんに対する思いをライトに見抜かれ、それを全肯定されます。
三人組のもうひとり、菜摘は思ったことをずけずけ言ってしまう性格のため周りから疎まれ、いじめを受けていました。そして、菜摘はイマジナリーフレンドの存在をライトに見抜かれます。
それぞれライトに心のなかの大切なものを見抜かれたふたりは、ライトに友情というよりも崇拝に近い感情を抱きます。この感情の重さも不穏です。物語は、高校生になったリクと菜摘が六年生だった当時を振り返って交互に語る形式で展開されます。となると、少なくともふたりは高校生になるまで生存していることはわかりますが、ライトは……と考えてしまうと読者はどんどん不安になってしまいます。また、三人組それぞれにタイプの異なる強烈な毒親を配置するというのも極悪です。やがて物語は、「鉄塔」という舞台に導かれています。
子どもたちは、儀式的な無意味な行動にむしろ価値を見出そうとします。これは、森絵都が90年代にやっていたようなこと、『宇宙のみなしご』の屋根登りのような行動を思い起こさせます。たまたま同時期に出た宮下恵茉の『9時半までのシンデレラ』にも似たような傾向がありましたが、90年代的なものが見直される時期に入ってきたのかもしれません。
『教室の祭り』『メジルシ』など、草野たきにはそのタイトルとともに読者に忘れられない傷を刻みつける作品群があります。この『最高のともだち』も、忘れることのできないタイトルになりそうです。