『博物館の少女 騒がしい幽霊』(富安陽子)

トノサマと呼ばれる怪人物の助手として博物館で働く明治時代の少女イカルの物語第2弾。イカルは山川捨松と大山巌の夫妻と知り合い、やがて大山巌の先妻の子どもの教育係として館に招かれます。イカルの真の任務は、館で起きるポルターガイスト現象の調査でした。館にはさまざまな亡霊が現れて騒がしいことこの上ない、しかも殺人事件まで絡んできます。
この作品、エンタメとしてあまりに完成されているので、あまり感想を付け加える必要がありません。プロローグの降霊会の雰囲気がよく、本編が始まるとすでにそれがインチキであることがバレているというスピード感にも驚かされます。山川捨松と大山巌が元は仇敵同士の会津と薩摩の出身であることから館内ではさまざまな因縁が渦巻いていて、興味が尽きません。そんななかでイカルと子どもたち、捨松が徐々に信頼関係を築いていくさまも読ませます。そして、ミステリとして、怪奇小説として、それぞれ満足のいく解決編に至ります。
エンタメとしてできすぎているので、児童文学として出さずに講談社タイガとかオレンジ文庫とかで出した方が多くの読者に読まれるのではとか、よけいな心配までしたくなってしまいます。しかし考えてみれば、今年文庫化されて話題になった『幸せな家族 そしてその頃はやった唄』がいい例であるように、偕成社は尖ったエンタメを得意とする出版社なんですよね。偕成社文庫の名作路線のイメージで堅い出版社だと誤解されがちですが、こういうのこそ偕成社らしい本といえるのかもしれません。